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高松高等裁判所 昭和29年(ネ)126号 判決 1956年4月10日

控訴人(附帯被控訴人)

篠原高一 外二名

被控訴人(附帯控訴人)

久保田正一

主文

(一)  原判決を左の通り変更する。

控訴人等三名は連帯して被控訴人に対し金三十八万四千八百十円及之に対する昭和二十六年十一月二十二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え

被控訴人の爾余の請求を棄却する。

(二)  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

(三)  訴訟費用中附帯控訴費用は被控訴人の負担とし其の余の訴訟費用は第一審第二審を通じて之を二分しその一を控訴人等の連帯負担としその一を被控訴人の負担とする。

(四)  本判決中被控訴人勝訴部分に限り被控訴人において担保として金十万円又は之に相当する有価証券を供託するときは仮りに之を執行することができる。

事実

(省略)

理由

(一)  被控訴人は大正十四年一月二日生の独身者であつて、戦時中は現役として軍務に服し、終戦により昭和二十年十月復員したものであるが、荷馬車挽きを専業として貨物の運搬に従事していたこと、控訴人等三名は共同事業として香川県三豊郡五郷村大字内野々において木材伐り出しの事業を営んでいたこと、被控訴人が昭和二十四年十月二十七日控訴人久保重富から右業務に伴う木材運搬の依頼を受け、翌二十八日積取り指定地である右木材伐採地まで馬車を操縦して上り、同日午前九時頃木材積出のため木材集積場の現場に到着したこと、被控訴人が右現場に到着するや、大声で山上の控訴人等に対し「今来たぞう」と到着したことを知らせたところ、控訴人久保頼高が「そうか今下りてゆく」と応答したこと、被控訴人はその頃右木材集積場の現場で右足を負傷したことは何れも、当事者間に争がない。被控訴人は右負傷は控訴人等三名の共同不法行為に基くものであると主張し控訴人等は之を争うので先ずこの点につき判断する。原審並当審証人久保田源清、同高橋直吉、同久保田徳市(当審は第一、二回)の各証言並原審並当審における被控訴本人の各供述に同現場検証の各結果を綜合すれば、被控訴人は控訴人等の依頼に基き、前記日時前記場所に至り、木材を荷馬車に積込む作業をしていたところ、突然重量約百三十貫、末口一尺五分長さ二間半位の木材が落ちて来て、被控訴人の右足に当り、そのため右足に重傷を蒙つたこと、右木材は控訴人等三名が、共同して何等の合図をせずに突然落下せしめたものであることが認められる。原審並当審における証人西山保太郎、当審証人竹原正義、同柳沢竜山の各証言、同控訴人三名の各供述(重富については当審は第一、二回中右認定に反する部分は前示各資料に対比すればたやすく措信し難く、他に之を覆すに足る証拠はない。被控訴人が負傷した場所は控訴人等が常に木材を落していた場所からは見透の困難な地形であるため、木材を落すときは危険予防のため、右集積場の傍らの立木の根元附近に赤旗を立てて、その危険なことを標示することにしていた事実は控訴人等の認めるところである。してみると右のような場所において木材を落下せしめる場合には、危険なることを何人にも判り得るように、適当な方法を講じた上、更に材木を落下するに当つては、危険のないことと確認した上でしなければならない条理上当然になすべき注意義務があるものと謂はねばならない。然るに当日控訴人等は常には危険を知らせるために掲げていた赤旗を倒していたことは控訴人等の争はないところであり、又原審における被控訴本人の供述と弁論の全趣旨によれば、前叙の通り被控訴人が右場所に到着したことを通じたのに対して控訴人等から応答があつたことが認められる。原審並当審における控訴人三名の各供述(控訴人重富の当審は第一回)の中右認定に反する部分は右資料に対比すればたやすく措信し難く他に之を左右するに足る資料はない。してみると控訴人等は被控訴人が右集積場で作業していることを知つていたものと認めるのほかはない。然るに控訴人等が何等の合図もせずに、突然右木材を落下せしめたことは控訴人等として当然なすべき注意を怠つたもので過失ありと謂うべきである。

控訴人等は当日は右木材搬出の目的で本件現場に赴いたものではない旨主張し当審における控訴人三名の各供述(控訴人重富は第二回)中右主張に副う部分あるも、たやすく措信し難く、他は該主張を肯認するに足る資料はない。

従つて、之等の事情を綜合すれば控訴人等は過失により被控訴人に傷害を蒙らしめたものと謂うのほかなく、控訴人等三名は共同不法行為者として連帯して被控訴人に対しその損害を賠償すべき義務がある。

(二)  そこで損害額につき検討する。

(イ)  成立に争のない甲第二号証、第三号証の一、乃至三、第四号証、第五号証の一、二に原審証人富田ふくゑの証言及原審並当審における被控訴本人の供述を綜合すれば被控訴人は右負傷のために、訴外鈴木外科病院に入院して治療を受けその入院料及治療費として合計金一万二千三百十円を支出し、同病院を退院した後、佐竹接骨師の治療を受け、この治療費合計一万七千四百円を、更に三豊病院の治療を受け、この治療費として金千百円を支出したこと(その合計三万八百十円)が認められ、これ等の支出は控訴人等の不法行為によつて被控訴人の蒙つた損害であるから、控訴人等において賠償の責任がある。

(ロ)  前示証人富田ふくゑ、原審証人牧野福市、同安藤義高、同久保田徳市(後記措信しない部分を除く)の各証言、原審における被控訴本人の供述(後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、被控訴人は負傷前、荷馬車挽によつて一日平均総収益金八百円にして、同上飼料代及馬車其の他の損料金二百五十円、従つて純収入金五百五十円にして、一ケ月平均稼働日数二十日にして、平均純収入金一万一千円を得ていたこと及被控訴人は負傷の結果昭和二十四年十月二十八日から同二十五年十二月二十七日頃まで休養するの余儀なきに至つたことが認められる。前示証人久保田徳市の証言及前示被控訴本人の供述中右認定に反する部分はたやすく措信し難く他に之を動かすに足る証拠はない。従つて、その休養の期間たる十四ケ月間一ケ月金一万一千円宛減収となり(この合計十五万四千円)、この損害は実験則上右負傷によつて通常生ずべき損害と認められるから、これまた共同不法行為者たる控訴人等において賠償すべき義務があるものである。

(ハ)  成立に争のない甲第一号証第二号証と原審における鑑定人福家義暢の鑑定の結果に当審における被控訴本人の供述を綜合すれば被控訴人の蒙つた傷害は、右大腿骨々折並膝関節強直症で今なほ大腿骨変形治癒骨折による障害と膝関節強直による障害が甚大なるため、歩行に障害あり、自転車に乗り難く、階段を上下するに困難を伴い、重量物を持ち上げること不能、水田作業不能、日常の起坐、排便にも甚しく不自由を伴い、従つて労働力に大なる障害となることが認められる。これがため被控訴人の蒙る精神上及肉体上の苦痛に対し控訴人等は慰藉料支払の義務がありその額につき検討するに被控訴人の蒙つた負傷の部分程度、並治療期間、及受傷の際並其の後の措置及双方の態度等は前記の通りであり、又被控訴人の経歴職業は冒頭説示の通りであるほか原審並当審における証人久保田徳市(当審は第一回)の各証言同被控訴本人の各供述同控訴人三名の各供述(控訴人重富の当審は第一、二回)を綜合すれば被控訴人は兄徳市とは別居して、農地其の他の財産なく、荷馬車挽きによつて独立の生計を樹てようとしているものであること、控訴人等は何れも農業を本業とし、傍ら本件木材伐り出しの事業と共同経営していたものであることが認められる。之等の事情を彼是考合すれば右慰藉料の額は金二十万円とするを相当とする。

(三)  次に控訴人等の仮定抗弁につき当裁判所のなした判断は原判決理由説示と同一であるからここに之を引用する。

(四)  叙上説示によつて、控訴人等三名は連帯して被控訴人に対し前記(イ)(ロ)(ハ)認定の合計金三十八万四千八百十円及之に対する本件訴状送達の翌日たること記録上明白な昭和二十六年十一月二十二日から完済に至るまで年五分の割合による民事法定遅延損害金を支払う義務がある。

被控訴人の本訴請求は右認定の限度において正当として認容すべく爾余は失当として之を棄却すべきものとする。仍て之と異る原判決は失当にして、本件控訴は一部理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条に則り之を変更し、附帯控訴は理由がないから同法第三百八十四条に則り之を棄却すべく、訴訟費用の負担につき同法第八十九条第九十二条第九十三条第九十六条を、なお附帯控訴費用の負担につき同法第九十五条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文のように判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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